わたしのおすすめ本 by 山下 みどり
ミヒャエル・エンデ『モモ―時間どろぼうとぬすまれた時間を人間にかえしてくれた女の子のふしぎな物語』 1976 岩波書店
辰濃和男『ぼんやりの時間』 2010 岩波書店
今月は2冊いっしょに紹介します。
「ぼんやりしている時間」はむだなのでしょうか。
ミヒャエル・エンデの書いた『モモ』の主人公は,「ぼんやりしている時間」を大切にする少女です。
ぼーっとしている時間はむだだ!と効率を一番に考える人はそういうでしょう。でも,一見むだに見える時間のなかに,実は大切な役割をはたしているものがたくさんあります。雨の音を聞く。雲を見る。夕焼けをながめる。星を仰ぐ。雑談をする。ペットと触れ合う。そういうむだにみえる時間を重ねるところに,生活の厚みとか深みとかが育ってくるのです。たくさんのむだな時間の集積こそが,実は暮らしを豊かにする潜在的な力を持っていると思います。
『モモ』は,「時間どろぼう」の灰色の紳士たちが,人々から「時間」を「こころ」を奪っていく物語です。「むだな時間をけずれ」と灰色の紳士たちは言います。多くの人がせっせと時間を切りつめるようになり,日々の暮らしが味気ない,せかせかしたものになっていきます。効率だけを求められる社会は,“こころ”を忘れていきます。こころをどこかに置き忘れないようにしたいですね。
モモ―時間どろぼうとぬすまれた時間を人間にかえしてくれた女の子のふしぎな物語 (岩波少年少女の本 37) | |
ミヒャエル・エンデ
岩波書店 1976-09-24 |
ぼんやりの時間 (岩波新書) | |
辰濃 和男
岩波書店 2010-03-20 |