私とカウンセリング 92


私とカウンセリング by 内村凉惠

退職してしばらく過ぎたある日、「カウンセラーをしませんか。」とのお誘いを受けた。

「私にできるかな」と、不安を抱きながら、やってみることにした。

スクールカウンセラー、それが私の職名であった。この年齢にして初めての仕事である。

中学校に出向き、心の相談室に訪れる悩みや不安をもつ生徒・保護者の相談相手になり、彼らの心を軽くするのが役目だとの説明をうけた。

新しい仕事にいささかワクワクしながら、学校の相談室に出向いた。ところが、そこに訪れる子供たちの様相。それにまず、驚かされた。私の想像を絶するものだった。

ろう人形のように青白い顔色をして、無表情な子。眉毛をおとし、下ばかり向いている子。手足の爪にマニキュアをして、異常に明るく振舞う子。友達に殿様と呼ばれ、横柄に振舞うが母親同伴でないと登校できない子。体のあちこちに青あざをつくり、体をつまむ痛みが快感といって泣く子。母親を「あの女」とよび、母親の不平不満をまくしたてる子・・・。

毎日が驚きの連続であった。

初めのころ、彼らは、私がこれまで出会った中学生とは、異なっているように思えてしかたなかった。しかし、彼らとの出会いの回をかさねていくうちに、どの子も一皮一皮むける様に表情が和らぎ、中学生らしいあどけなさを取り戻していく。その過程は、一喜一憂しながらも、多くのことを学び、考えさせてくれた。この仕事の醍醐味を味わったような気がする。

あれから何年か・・・時がすぎた。私は、現在教育電話相談をしている。力量不足を痛いほどかんじながら・・・。

彼らは、今どこで、どんな人生を歩んでいるのだろうか。中学時代のあの日あの時のことを糧に、力強く前進している真っ只中であることを願わずにはおれない。