「ナラティヴ・セラピーの会話術」を読んで

【以下の文章は、私の本を読んでから直ぐに送って頂いたメールです。そのため、そのときの感情が前面に出ているのだと思います。2通のメールとして頂きましたので、読みやすいようにひとつにまとめています。(国重)】

 

今さっき、国重さんのナラティブ・セラピーの会話術を読み終えました。

じっくりと味わいながら読んで、特徴のある表現や言葉や文章に赤線を引いて、ついつい国重さんの語る姿が浮かびつつ、率直に正直さが伝わってきました。あとがきにも現時点での集約を感じて、「自分の手の内を、できるだけ正直に伝えるということは大変なことであると実感しています」という言葉に、国重さんがすでに手にしているオリジナリティあるプロフェッショナルを感じました。

今、僕は、爽やかな爽快感の漂う気分で充実感に包まれているようです。穏やかな感動というか。僕は、人間性心理学的アプローチのカウンセリング全般が好みです。苦手な心理療法もあります。しかし、ナラティブ・セラピーは、僕にとって不思議と矛盾を感じないのです。境界線はあっても相互補完的にどれもこれもあるという感じです。

たとえて言うと、人体の細胞(多数の心理療法学派)それぞれに、出入りして多数の細胞の間を浸してうめている浮かべている「組織間液(間質液)」みたいに無色透明で必要にして重要なもの。それを「ナラティブ・セラピー」に感じました。

国重さんの本でようやくナラティブセラピーの雰囲気が感じられました。普通の通常会話では用いられないナラティブ独特の特有な言語表現が、なんとなく従来の個人主義的な因果論を求められる人々には違和感を覚えるのでしょうが、ナラティヴの意図していることは国重さんを通して感じ取れました。

日本語で日本人にカウンセリングする場合、外在化が本人自身の問題や責任ではないとピンと気づけば感じられると思います。ディスコースを単純に言説と訳すのも妥当かもしれませんが、あえて国重さんがディスコースを訳さなかった意味合いも、この言葉には個人的な意味付けや社会的な意味合いや過去からの文化的伝統や未来への方向付けまでも含まれていて、個人個人や社会集団の価値観や信念までも左右する言語的力がある重要なキーワードだから、単純に訳せない理由も感じられました。

ナラティブそのものは、なんか海のようです。島と島、大陸と大陸、それらを流動しながら満たしてくれる。ナラティブの技法は船や飛行機や潜水艦や様々な乗り物。世界中の民族を往き来するような。ドミナントストーリーは地図上のあらかじめ決められた航路。オルタナティブストーリーは地図はあっても航海自体を冒険し楽しむ自由。みたいなイメージです。

私は、いつかはナラティブも私の中に統合します。では、またいつか会える時を楽しみにしています。(T. A.)

ナラティヴ・セラピーの会話術: ディスコースとエイジェンシーという視点
ナラティヴ・セラピーの会話術: ディスコースとエイジェンシーという視点 国重 浩一

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