わたしのおすすめ本 by 清原浩
~ スクールカウンセラーに必読の本 ~
竹内常一「子どもの自分くずしと自分つくり」 東京大学出版会 1987年、1890円
この本の初版は1987年に出版されている。既に、20年の月日が流れているが、いまだに増刷されていて、すぐ手に入れることができる。そして、書かれている内容は、ますます現代の子どもの状況理解にぴったりである。なまじの、というと申し訳ないが、児童心理学関係の本より、子ども理解が深く、大変参考になる本である。この本をずっと、県立保健看護学校保健学科の「教育原理」の授業で使用してきたが、このたびヒューマンネット(不登校問題を考える会)が主催する「子どもの心の勉強会」で、親の方々と共に、月1回読み合わせていくこととなったのを機会に紹介したくなった(07年4月から始まっていて、鴨池公民館で行っており、誰でも参加できる)。
さて、この本の特徴は、現代の子どもの心の状況を心理学的にのみ解明しているのではなく、さりとて社会的問題としてのみ解釈しているのでもなく、まさに社会的状況の変化が、家庭のありかたに変化をもたらし、家庭の変化が子どもの心のありように多大な影響をあたえている事実を、大変リアルに、ということは事例、実例に基づいて解明している。
もう少し紹介する。彼によると現代社会は経済的に恵まれた教育家族とさまざまな事情で貧困な状況に追いやられた非教育家族へと分裂しており、双方の家族の子供達が、それぞれ課題をかかえているとしている。教育家族の子供達は、学力競争の中で自己を支配する序列的価値観にとらわれて自己を解放できず、一方、非教育家族の子供達は、自己形成に必要な重要な他者(通常は両親)が精神的に存在していないかむしろ自己を破壊する存在(たとえば虐待などを通して)として存在し、自己を形成していくモデルをもつことができず、不安と恐怖の中をさまよい歩くとしている。現在、頻発する少年たちの犯罪を見ると、さまよい歩いて行き着くところと感じる。こうした状況の中でのいじめ、不登校やその他の精神症状、身体症状、行動化状況の現実を分析している。すぐ役にたつ解決への処方箋が書かれているわけではないが、深く理解するところから出発すると思わせてくれる本である。スクールカウンセラーには必読の名著と思っている。
子どもの自分くずしと自分つくり (UP選書) 竹内 常一 東京大学出版会 1987-07 by G-Tools |